2021年9月市場を賑わせている問題
2019年に362億ドルの資産を有し世界22位、中国3位の富豪となった許家印の恒大集団が破産の危機になっている。
負債は33兆円と言われ、それを超える資産を持っているとされるが多くは不動産で売却しないと現金が足りずに債務不履行(借金・社債・金融商品の利払い、又はその返済・償還に応じられなくなる事)となってしまう。
中国の不動産大手、中国恒大集団の2兆円を超える米ドル債が国際金融市場を揺らしている。リゾート開発など無謀な投資で資金繰りが厳しくなり、社債利回りが9日時点で50~470%まで上昇(価格は下落)しているためだ。仏アムンディやスイスのUBSグループなど世界の運用会社が恒大債を保有しており、破綻すれば投資家は損失を免れない。中国政府が救済するかどうかは不透明で投資家は売却を急いでいる。
中国恒大集団は資金繰りのために最大利回り9.5%にも上る金融商品を社員(ほぼ強制でノルマ達成出来ないと減給のため家族・親戚・友人にも売っていた)・顧客(顧客リストや恒大集団のマンション内で販売)に売っており、それが償還出来なくなったため購入者が押し掛けた様子と思われる。
恒大集団とは
戦後、貧農の家に生まれた許家印によって設立された不動産会社。
許家印は早くに母を無くして父親に育てられるも、父親は抗日戦争に参加した英雄、本人も忠実な共産党員で大学に進学しビジネスの世界で頭角を現し立身出世を果たし中国三大富豪に名を連ねる。
運営するサッカークラブ「広州恒大足球倶楽部」は中国サッカー・スーパーリーグ7連覇とAFCチャンピオンズリーグを2度制覇しているためサッカーファンの間では名前を聞いた事がある人も。
中国の国策でもあるEV事業・ミネラルウォーター販売にも進出し経営を多角化していたが・・・
2020年経営危機が露呈
2020年8月、中国恒大集団が広東省政府宛に送付した書簡が流出。これによると、同社の負債は8300億元(約12兆8333億円)以上で、流動性危機による債務不履行(デフォルト)の可能性を示唆。
※同社は9月24日、書簡について否定
経営不振の背景
中国では土地成金が多く、土地さえ買っておけば良いという土地神話があるため不動産価格が上がりやすく投資対象となっています。
マンションは住むためのものであって、投資の対象ではない
これを快く思わない中国政府は折に触れ不動産バブル圧縮策を取っていた。特に2020年後半に取られた不動産融資制限政策「三道紅線」は不動産業界に大きな影響を与えた。
以下の三つの条件の企業は銀行融資を制限するというものである。
- 資産負債比率70%超
- 純負債資本倍率100%超
- 手元資金の短期債務倍率が100%を割り込む不動産企業
つまり、不動産向け融資と個人向け住宅ローン融資の残高の総融資残高に占める上限比率(=総量規制)を実行。
民間不動産業者500社が倒産する一方で資金力のある国有不動産会社が不動産を買い占める。
つまり、不動産バブル抑制を理由に国有不動産企業を儲けさせようとしたのである。
これらは習近平政権の政策方針が「改革開放」から「共同富裕」へ改革されている過程で行われており、まさに 「改革開放」 で立身出世を遂げた許家印は格好の見せしめである。
また、許家印は習近平の天敵ともいわれる太子党の重鎮、曽慶紅ファミリーと親交が深い事も見せしめに選ばれた理由かもしれない。
これで不動産バブル崩壊からの不景気になったら習近平政権、自業自得ですね・・・
北京市では1家庭が持てるマンションの数は二つまでだが、不動産購入目的の偽装離婚が社会問題となり北京市は離婚後不動産を購入出来ない期間を1年→3年にしたのも不動産売買の低下に拍車を掛けた。
2021年再び経営危機
総量規制で民間不動産会社に逆風が吹く中、それは一番財務の悪い中国恒大集団を直撃。
しかもEV事業に5兆円の投資をし国内外の同業他社と熾烈な争いをしている最中である。
YouTube動画「ひねけんの株式投資ニュース解説」でその財務状況が解説されている。
つまり、営業黒字だけれども、借金が多すぎて返済出来ない(デフォルト)の可能性。
※尚、返済期限は2021年9月21日
危機を脱するには手持ち不動産を売るしかないが、現在中国では不動産バブル崩壊への懸念か不動産取引件数が激減しており、投げ売りに近い形になり得られる現金は通常より少なくなりそう。
株式市場の反応
9月15日時点、既に恒大集団の株価はデフォルトを織り込む形で暴落が進んでおり、そのためか香港ハンセン株価指数は世界で一番劣後した指数となっている。
※中国はIT業界や教育業界に厳しい規制を発表しておりそれらも株価に悪影響した
尚、15日は恒大集団が20日の銀行借入の利息支払いを一時停止すると報道された。
しかし、上海総合指数は年初来高値近辺となっており、混乱は限定的と思われている。
この問題は8月から報道されていた事もあり中国以外の市場は織り込み済みかあまりネガティブな反応をしていない。
特に日経平均は菅首相総裁選不出馬(=退陣)を契機に始まった政局相場で33年ぶり12日連続陽線、31年ぶり日経平均高値。
中国政府の対応
そもそも中国政府は不動産価格を押さえたいため救済しない可能性もある。
しかし投資家が損失を被るだけでなく、他の民間不動産会社も不動産価格の低迷で経営が苦しくなり、また恒大集団の取引先(建設業等)・出資している銀行の連鎖倒産も懸念される。
中国では以下の二つの連休を控えており、特にデフォルト期限である21日前(中秋節前)には何らかの発表がある事が想定される。
・中秋節 9月19日~21日三連休 → 何もせず
・国慶節 10月1日~7日七連休 → 何もせず
表立って助けないず倒産もやむなしが既定路線か。となると連鎖倒産の危険がある銀行を助けるかどうかが焦点となる。
タイムライン
- 7月27日
株主に特別配当を実施しようとした(株主=経営者にお金を配って逃げようとした)
→銀行が訴えて中止 - 8月31日
上半期決算で流動性の問題で資産売却に失敗した場合のデフォルトリスクを指摘 - 9月07日 株価3.57HKD(-7.75%)
ムーディーズが格付けを下から二番目のCa(デフォルトあるいはそれに近い状態)に - 9月14日 株価2.96HKD(-12.17%)
金融商品の償還求め恒大集団の本社で投資家が抗議 - 9月15日 株価2.81HKD(-5.7%)
恒大集団が20日の銀行借入の利息支払いを一時停止すると報道 - 9月16日 株価2.63HKD(-6.41%)
恒大集団の本土不動産部門、16日の全社債取引を停止(17日再開)
恒大集団子会社、中国恒大地産集団は債券の格下げを受け上海上場債券の取引の1日停止を申請 - 9月17日 株価2.54HKD(-3.42%)
環球時報編集長、ウィーチャットで政府を当てにせず自力での立て直しを - 9月18日
6名の幹部が今年5~9月に金融商品を期限前償還していたことが判明(幹部は厳罰に処される)
社債保有者の第九位に日本のGPIF(72億円)がいることが判明※合計96億投資
満期を過ぎた金融商品は現金に代わり不動産を大幅値引きする事で返済を発表
※投資家は住宅物件が28%、オフィスが46%、駐車スペースは52%のディスカウント価格で購入可能。ただし、そもそもの価格が高く、住宅・オフィスは完成しておらず駐車場は需要がない地域の模様
金融商品の償還を求める投資家に逆に不動産買え(割引とはいえ)って凄いですね
- 9月20日 株価2.27HKD(-10.63% ※一時-19%) ※香港ハンセン指数-3.39%、上海は休場も欧米含めて世界的株安
今までこの問題を無視してきた世界市場もデフォルト期限1日前になって急に反応 - 9月21日 株価2.25HKD(-1.32%)
21日満期の2つの銀行からの融資に対する利子返済期限
許家印が社員に通達「最も暗い時期を抜け出し、計画通り事業を遂行することに自信を持っている」
一部メディアで政府による救済が報じられる - 9月22日 香港市場休場
23日期日の人民元建て債の利払いの実施を発表(日経平均3分で200円急騰もドル建て債が不明で-200円) - 9月23日 株価2.67HKD(+17.62% ※一時+32%)
ドル建て5年債(表面利率8.25%)の8350万ドルの利払い期日→支払われず、特約で30日の猶予へ
人民元建て債の2億3200万元(約39億円)の利払い期日→支払い実施
許家印が22日の社内会議で金融商品投資家(個人投資家)への償還が最優先と述べたと伝わる→安心感
中国当局、中国恒大の破綻可能性に備えるよう地方政府に指示= ダウジョーンズ通信→夜間200円程度急落もすぐ戻す - 9月24日 株価2.36HKD(-11.61%)
恒大集団のEV部門が従業員への給与とサプライヤーへの支払いを停止している(ブルームバーグ)
麻生太郎財務・金融相は24日の閣議後の記者会見で、中国の不動産大手、中国恒大集団の債務問題が世界経済や金融市場に与える影響について問われ
わかる人がいたら教えて。それが答えだ
- 9月27日 株価2.55HKD(+8.05%)
- 9月28日 株価2.67HKD(+4.71%)
中国人民銀行「不動産市場の健全な発展や住宅(購入者ら)消費者の合法的な権利を守る」 - 9月29日 株価3.08HKD(+15.73%)
利払い4750万ドル→支払われず30日の猶予へ
中国当局、中国恒大の資産買い取りを政府系企業に要請
中国恒大が保有する盛京銀行の株式を政府系投資会社に売却(=地方政府が支援) - 9月30日 株価2.95HKD(-3.91%)
- 10月4日 子会社売却交渉開始で取引停止→以降ずっと取引停止※関連会社株は暴騰もハンセンは-2.19%
米ゴールドマン、恒大集団の簿外債務を1兆元(17兆円)と計算
中国恒大の不動産管理部門、過半数株を合生創展が取得へ-報道 - 10月12日
利払い1億4813万ドル→支払われず30日の猶予へ
中国恒大、社債利払い見送り 過去3週間で3度目 ※「18日・19日にデフォルト宣言の可能性」 - 10月17日
中国指導部 恒大集団の経営危機で軍・警察に「第1級厳戒態勢」を発令 - 10月19日
利払い1億2180万元→支払い実施 - 10月21日 子会社売却交渉決裂で取引再開 株価2.58HKD(-12.54%)
中国恒大、不動産管理子会社の株式売却が頓挫 条件で合意至らず
恒大物業、株売却頓挫の舞台裏――習近平の厚意を蹴った恒大集団 - 10月22日 株価2.69HKD(+4.26%)
一か月猶予されていたドル建て5年債の8350万ドルの利払いを実施(=23日のデフォルトは回避) - 10月29日 株価2.33HKD(-3.32%)
一か月猶予されていたドル建て5年債の4750万ドルの利払いを実施(=29日のデフォルトは回避) - 10月30日
利払い1425万ドル - 11月8日
利払い8249万ドル→支払われず30日の猶予へ - 11月11日 株価2.52HKD(+6.33%)
一か月猶予されていたドル建て1億4813万ドルの利払いを実施(=11日のデフォルトは回避) - 12月3日
中国恒大、政府の全面関与で債務再編へ 軟着陸探る
広東省政府や中国人民銀行(中央銀行)など政府の全面的な監督・指導のもとで、外貨建て債務の再編を目指すことになった。中国政府は金融システム不安への波及や市場の動揺、取引先の連鎖破綻などを回避すべく、軟着陸(ソフトランディング)を探る。ただ債権者平等の原則を重視する海外債権者との交渉は難航が予想される。
~中略~
政府関与のきっかけは、恒大が米ドル建ての私募債を保有するとみられる投資家から債務(保証)履行を迫られたこと。金額は2億6000万ドル(約300億円)。債権者からの要請に対応できないと実質的な債務不履行(デフォルト)とみなされる可能性がある。
6日の米ドル債の利払い8249万ドル支払期限を前に、ついにデフォルトが見えてきたので政府が全面関与に動きました
- 12月6日 株価1.81HKD(+19.56%)
中国政府関与で本格的にデフォルトが意識され株価暴落
夕方、中国人民銀行が景気減速に対応するため大半の銀行を対象に今月15日に預金準備率を0.5ポイント引き下げると発表(資金繰りが厳しい不動産会社に取っても救済に繋がる好材料) - 12月7日 株価1.83HKD(+1.10%)
中国恒大の株価は前日の中国人民銀行の対応を受けて大幅高で始まるも、14:00の利払い期限に向けて値を消しどうやら利払い出来なかった模様
中国恒大、社債利払いせず デフォルト懸念高まる、市場警戒 - 12月14日 株価1.60HKD(-6.98%)
中国恒大株、上場来最安値を更新 - 12月28日
利払い2億5520万ドル→支払われず30日の猶予へ
中国恒大ドル債利払い期限 米報道「支払った様子ない」
2022年も元利金返済が相次ぐものの、既に米ドル債の利払い猶予期間が失効したのもあるため部分的なデフォルト認定されており、しかし中国恒大及び中国不動産業界以外への影響は限定的なため、一旦このまとめは終了。
尚、2022年の返済は以下の通りでそれで市場が動いた場合、別途まとめを開始します。
- 2022年1月22日 1億1750万ドル
- 2022年1月24日 2億3500万ドル
- 2022年2月14日 172万香港ドル
- 2022年3月24日 21億853万ドル(含む元本)
- 2022年3月29日 4750万ドル
- 2022年4月11日 15億9813万ドル(含む元本)
市場の反応
9月20日(日本は祝日で休場、ナイトで日経CFDは一時-1000円をつけるも翌日は大幅GDからの寄り底。結果的に祝日で世界同時株安を回避)
9月23日は中国恒大のデフォルト懸念が後退したとして+17.62%でそれとともに世界同時株高となるも日本は祝日。
明けた9月24日、日経平均+609円(+2.06%)。
9月のショック安以降目立った波乱はなく、2021年末時点で市場への影響は香港のみとなっている。
・香港ハンセン・・・年初来安値
・上海総合・・・高値安定
・アメリカ市場・・・主要3指数とも史上最高値近辺
・日本市場・・・日本独自の理由で弱く1年を通してよこよこ